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東京地方裁判所 平成12年(行ウ)100号 判決 2000年12月27日

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が、原告に対し、平成一〇年一二月二二日付けでした、原告の平成九年四月一〇日から平成一〇年二月二八日までの事業年度に係る消費税及び地方消費税の更正処分及びこれに対する過少申告加算税賦課決定を取り消す。

第二事案の概要

本件は、被告から消費税及び地方消費税の更正処分及びこれに対する過少申告加算税の賦課決定をされた原告が、同人は消費税及び地方消費税の納税義務はない等と主張して、右更正処分等の取消しを求めている事案である。

一  法令の定め

1  消費税法の定め

消費税法は、「個人事業者及び法人」を「事業者」と、「資産の譲渡等のうち第六条第一項の規定により消費税を課さないこととされるもの以外のもの」を「課税資産の譲渡等」と、「事業年度の前々事業年度(当該前々事業年度が一年未満である法人については、その事業年度開始の日の二年前の日の前日から同日以後一年を経過する日までの間に開始した各事業年度を合わせた期間)」を法人についての「基準期間」とそれぞれ定義した(同法二条一項四号、九号、一四号)上で、次のような規定をおいている。

(一) 事業者は、国内において行った課税資産の譲渡等につき、この法律により、消費税を納める義務がある。

(同法五条一項)

(二) 事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が三〇〇〇万円以下である者については、同法五条一項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等につき、消費税を納める義務を免除する。

ただし、この法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

(同法九条一項)

(三) その事業年度の基準期間がない法人のうち、当該事業年度開始の日における資本又は出資の金額が一〇〇〇万円以上である法人(以下「新設法人」という。)については、当該新設法人の基準期間がない事業年度における課税資産の譲渡等については、同法九条一項本文の規定は適用しない。

(同法一二条の二)

(四) 新設法人に該当することとなった事業者は、当該事業者が新設法人に該当することとなった旨を記載した届出書を速やかに当該事業者の納税地を所轄する税務署長に提出しなければならない。

(同法五七条二項)

(以下、右の届出書を「消費税の新設法人に該当する旨の届出書」という。)

(五) 事業者(同法九条一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が、その納税地を所轄する税務署長にその基準期間における課税売上高(同項に規定する基準期間における課税売上高をいう。)が二億円以下である課税期間について同法三七条一項の規定の適用を受ける旨を記載した届出書を提出した場合には、当該届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間(ただし、当該届出書を提出した日の属する課税期間が事業を開始した日の属する課税期間その他の政令で定める課税期間である場合には、当該課税期間)以後の課税期間(その基準期間における課税売上高が二億円を超える課税期間及び分割に係る課税期間を除く。)については、同法三〇条から三六条までの規定により課税標準額に対する消費税額から控除することができる課税仕入れ等の税額の合計額は、これらの規定にかかわらず、当該事業者の当該課税期間の課税標準額に対する消費税額から当該課税期間における同法三八条一項に規定する売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額の合計額を控除した残額の一〇〇分の六〇に相当する金額(卸売業その他の政令で定める事業を営む事業者にあっては、当該残額に、政令で定めるところにより当該事業の種類ごとに当該事業における課税資産の譲渡等に係る消費税額のうちに課税仕入れ等の税額の通常占める割合を勘案して政令で定める率を乗じて計算した金額)とする。この場合において、当該金額は、当該課税期間における仕入れに係る消費税額とみなす。

(同法三七条一項)

(以下、同項の規定による課税制度を「簡易課税」、その計算方式を「簡易課税方式」、届出書を「簡易課税制度選択適用届出書」といい、同法三〇条から三六条までの規定による課税制度を「本則課税」という。)

(六) 事業主が、新設法人が事業を開始した日の属する課税期間内に簡易課税制度選択適用届出書を提出し、当該課税期間から簡易課税の適用を受けることを選択した場合には、その事業を開始した日の属する課税期間から簡易課税が適用される。

(消費税法施行令五六条一号)

2  地方税法の定め

地方税法は、「個人事業者(事業を行う個人をいう。)及び法人」を「事業者」と、「消費税法第四五条第一項第四号に掲げる消費税額を課税標準として課する地方消費税」を「譲渡割」とそれぞれ定義した(地方税法七二条の七七第一号、第二号)上で、次のような規定をおいている。

(一) 地方消費税は、当該事業者(消費税法九条一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)の行った消費税法二条一項九号に規定する課税資産の譲渡等については、当該事業者に対し、地方税法七二条の七八第二項に規定する道府県が譲渡割によって課する。

(同法七二条の七八第一項)

(二) 譲渡割の賦課徴収は、当分の間、国が消費税の賦課徴収の例により、消費税の賦課徴収と併せて行う。

(同法附則九条の四第一項)

二  前提となる事実(いずれも当事者間に争いがない。)

1  当事者

原告は、平成九年四月一〇日に資本金の額を金一〇〇〇万円として設立された一般貨物自動車運送事業を業とする会社である。

原告の営む右業種は、消費税法施行令五七条五項四号のロに規定する運輸通信業に該当し、第五種事業となる。

2  本件更正処分に至る経緯

(一) 原告は、平成九年一一月七日、被告に対し、消費税の新設法人に該当する旨の届出書及び簡易課税制度選択適用届出書を提出した。

(二) 右(一)の簡易課税制度選択適用届出書の「適用開始課税期間」欄には平成九年四月一〇日から平成一〇年二月二八日までとの記載がある。

(三) 原告は、原告の平成九年四月一〇日から平成一〇年二月二八日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)に係る消費税及び地方消費税について、法定申告期限前である平成一〇年四月三〇日、被告に対し、消費税法三〇条に規定する控除の方法(本則課税)により仕入れに係る消費税額の計算を行い、別表一の順号1「確定申告」欄記載のとおり、確定申告(以下「本件確定申告」という。)をした。

(四) しかし、被告は、本件課税期間における仕入れに係る消費税額の計算について簡易課税を適用すべきであるとして、別表一の順号2「更正・決定」欄記載のとおり、平成一〇年一二月二二日付けで原告の本件課税期間に係る消費税及び地方消費税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及びこれに対する過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)をした。

(五) 原告は、本件更正処分等を不服として、平成一一年二月二三日、被告に対し、別表一の順号3「異議申立て」欄記載のとおりに異議申立てをしたが、被告は、これに対し、同年五月二〇日、右異議申立てを棄却する旨の決定をした。

(六) そこで、原告は、平成一一年六月二四日、国税不服審判所長に対し、別表一の順号5「審査請求」欄記載のとおり、審査請求をしたが、同所長は、平成一二年一月二一日、右審査請求を棄却する旨の裁決をした。

三  被告の主張する本件更正処分等の根拠及び適法性

被告の主張する原告の本件課税期間に係る消費税の課税標準額、納付すべき税額等及び地方消費税の課税標準となる消費税額、譲渡割額並びに過少申告加算税額は、以下のとおりである。

なお、後記のとおり、原告は、現行の消費税法によれば、原告には消費税及び地方消費税の納税義務が生じておらず、仮に右の各納税義務が肯定されたとしても本則課税を適用すべきであると主張して本件更正処分等を争っているものであるが、原告の本件課税期間に係る消費税及び地方消費税について、右各納税義務の存在が肯定され、その税額は簡易課税方式によって算定すべきものと判断された場合の消費税の課税標準額、納付すべき税額等及び地方消費税の課税標準となる消費税額、譲渡割額並びに過少申告加算税額の計算関係については、当事者間に争いがない。

1  本件更正処分の根拠及び適法性について

(一) 本件更正処分の根拠について

原告の本件課税期間の消費税の課税標準額、課税標準額に対する消費税額、控除対象仕入税額及び納付すべき税額並びに地方消費税の課税標準となる消費税額及び譲渡割額は、それぞれ次のとおりである。

(1) 課税標準額 一二億二七九四万八〇〇〇円

本件課税期間の消費税額の課税標準額は、二億二七九四万八六三一円であるところ、国税通則法(以下「通則法」という。)一一八条一項の規定により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた二億二七九四万八〇〇〇円となる。

(2) 課税標準に対する消費税額 九一一万七九二〇円

右金額は、右(1)の課税標準額二億二七九四万八〇〇〇円に消費税の税率一〇〇分の四(消費税法二九条)を乗じた金額である。

(3) 控除対象仕入税額

四五五万八九六〇円

原告の営む事業は、消費税法施行令五七条五項四号のロに規定する運輸通信業に該当し、第五種事業となることから、控除対象仕入税額は右(2)の消費税額九一一万七九二〇円に第五種事業の控除率一〇〇分の五〇(消費税法施行令五七条一項四号)を乗じた金額四五五万八九六〇円となる。

(4) 差引納付すべき消費税額 四五五万八九〇〇円

右金額は、右(2)の消費税額九一一万七九二〇円から、右(3)の控除対象仕入税額四五五万八九六〇円を控除し、通則法一一九条一項の規定により一〇〇円未満の端数を切り捨てた後のものである。

(5) 地方消費税の課税標準となる消費税額四五五万八九〇〇円

右金額は、右(4)の差引納付すべき消費税額と同額(地方税法七二条の七七第二号及び同法七二条の八二)である。

(6) 地方消費税の譲渡割額 一一三万九七〇〇円

右金額は、地方消費税の課税標準となる右(5)の消費税額四五五万八九〇〇円に地方税法七二条の八三に規定する税率一〇〇分の二五を乗じ、同法二〇条の四の二第三項の規定により一〇〇円未満の端数を切り捨てた後のものである。

(二) 本件更正処分の適法性について

右(1)のとおり、本件課税期間の課税標準額は二億二七九四万八〇〇〇円、納付すべき消費税額は四五五万八九〇〇円及び譲渡割額は一一三万九七〇〇円であるところ、別表一の順号2「更正・決定」欄に記載した本件更正処分における課税標準額、納付すべき消費税額及び譲渡割額は、いずれも右各金額と同額であるから、本件更正処分は適法である。

2  本件賦課決定処分の根拠及び適法性について

前記1(二)記載のとおり、本件更正処分は適法であるところ、被告は、本件更正処分をしたことに伴い、通則法六五条一項及び二項並びに地方税法附則九条の九第一項の規定に基づき、別表二記載のとおり、本件更正処分により新たに納付すべきこととなった消費税額二四六万六七〇〇円と譲渡割税額六一万六七〇〇円の合計額三〇八万円(通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数切り捨て後のもの)に一〇〇分の一〇(通則法六五条一項)を、また、右の消費税額及び譲渡割税額の合計額のうち申告における合計額に相当する二六一万五二〇〇円を超える四六万円に一〇〇分の五(同条二項)を乗じて得た各金額の合計額三三万一〇〇〇円を過少申告加算税として賦課決定したものである。

そして、原告には本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、通則法六五条四項に規定する正当な理由が存するとは認められないから、本件賦課決定処分は適法である。

四  当事者双方の主張

(原告の主張)

1(一) 資本金額一〇〇〇万円以上の新設法人に対する課税関係は、現行消費税法の下では成立し得ないというべきである。

(二) 新設法人に対する消費税の課税関係を規定する法的根拠は、消費税法一二条の二と消費税法九条との規定関係にあると解される。

すなわち、消費税法一二条の二が「その事業年度の基準期間がない法人のうち、当該事業年度開始の日における資本または出資の額が千万円以上である法人については、当該新設法人の基準期間がない事業年度における課税資産の譲渡については、九条一項本文の規定は、適用しない。」と規定し、消費税法九条一項が「事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が三千万円以下である者については、五条一項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等につき、消費税を納める義務を免除する。」と規定している。

しかし、消費税法九条一項の規定は、法文どおり解釈すれば、単に、基準期間の課税売上高が三〇〇〇万円以下の事業者の納税義務を免除するというにすぎない条文であり、新設法人に対する課税関係成立の法的根拠にはなり得ないものである。

そして、消費税法が、新設法人について納税義務の発生することを規定せず、また、新設法人の基準期間の課税売上高を零と推定することを規定しない以上、基準期間の存在しない新設法人については、課税売上高は観念することができないものであって、これと売上高が零であることは異なるものであるから、消費税法九条一項によっても、新設法人に対する課税関係の発生根拠とはなし得ないものである。

(三) また、消費税法は、事業者を非課税業者と課税業者とに分類し、さらに、課税業者をその規模において簡易課税制度選択適用事業者と本則課税事業者に分類するが、この区分基準を課税売上高の規模によるものとしたため、納税義務を課するためには二会計年度の経過が必要となる。

すなわち、消費税法の基本的構成は、課税期間に係る基準期間の存在を前提とするものである。

そして、消費税法の各条文は、その根幹となる法体系と矛盾する場合は、法解釈上その存在は否定され、法的効果は否定されざるを得ないのであるところ、消費税法一二条の二の規定が、設立第一期及び設立第二期の課税売上高が三〇〇〇万円以下の新設法人についても消費税の納税義務を課するものであるとすれば、右の消費税法の本来的構造を著しく歪曲し、公平を失するものである。

したがって、現行の消費税法によって、基準期間が存在しない新設法人に対し、消費税の納税義務が課されるものと解することはできない。

(四) なお、被告は、消費税法五条一項によって、消費税に係る具体的納税義務が生ずると主張するが、同項は、国民の納税義務を示した憲法三〇条と同様の包括的注意規定であって、これをもって、具体的な課税関係を規定するものと解することはできない。

2 仮に、租税政策上やむを得ないものであったとして、緊急避難的な納税の義務が生ずるとしても、基準期間が存在しない事業者の区分についての配慮をすべきである。

すなわち、新設法人である事業者は、その事業開始の時点でその事業年度末までの課税売上高を正確に予測することは不可能であるから、事業者はあらゆる場合を想定して手続を進めなければならないこととなる。

そこで、新設法人の設立第一期の課税期間の課税売上高が二億円を超えた場合は、簡易課税制度選択不適用届出書が提出されていなくても、自動的に本則課税とされ、右期間の課税売上高が二億円以下三〇〇〇万円超となった場合には、簡易課税とされるものと解すべきである。

なお、消費税法三七条一項の規定は、本来の基準期間のある課税事業者の課税期間に関するものであって、基準期間のない新設法人に対して当然に適用されるものではないというべきである。

(被告の主張)

1 消費税法等の規定と本件への適用

(一) 消費税法五条一項は「事業者は、国内において行った課税資産の譲渡等につき、この法律により、消費税を納める義務がある。」と規定し、同法九条一項は「その課税期間に係る基準期間における課税売上高が三千万円以下である者については、第五条一項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等につき、消費税を納める義務を免除する。ただし、この法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。」と規定している。

そして、消費税法九条一項の別段の定めとして、同法一二条の二は、その事業年度の基準期間がない法人のうち新設法人には、その法人の基準期間がない事業年度における課税資産の譲渡等については、同法九条一項本文の規定は適用しないと規定している。

したがって、原告は、本件課税期間に係る基準期間がない法人であるが、本件課税期間(事業年度)の開始の日(平成九年四月一〇日)に資本金の額を一〇〇〇万円として設立された法人であって、新設法人に当たるから、消費税法一二条の二により、本件課税期間における課税資産の譲渡等について、消費税等の納税義務が免除されないことになる。

(二) 一方、消費税法三七条一項は、事業者(消費税法九条一項本文の規定により消費税の納税義務が免除される事業者を除く。)が、所轄税務署長にその基準期間における課税売上高が二億円以下である課税期間について、簡易課税制度選択適用届出書を提出した場合には、当該届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間(当該届出書を提出した日の属する課税期間が事業を開始した日の属する課税期間である場合には、当該課税期間)以後の課税期間については、簡易課税を適用して計算した金額を仕入れに係る消費税額とみなす旨規定している。

したがって、新設法人が事業を開始した日の属する課税期間内に簡易課税制度選択適用届出書を提出し、当該課税期間から簡易課税の適用を受けることを選択した場合には、その事業を開始した日の属する課税期間から簡易課税を適用でき(消費税法施行令五六条一号)、新設法人は、基準期間における課税売上高がないから、当該届出書を提出した場合には、当該課税期間の課税売上高が二億円を超えたとしても、当該課税期間から簡易課税を適用して仕入れに係る消費税額を計算しなければならず、本則課税を適用することはできないこととなる。

(三) そして、原告は、被告に対し、本件課税期間に係る簡易課税制度選択届出を提出しているのであるから、簡易課税制度を適用することになり、本則課税を適用する余地はない。

2(一) これに対し、原告は、消費税法の基本的体系は、課税期間に係る基準期間の存在が前提とされているから、現行消費税法によっては、基準期間が存在しない新設法人に対し、納税義務を課することはできないと主張する。

(二) しかし、基準期間のない法人についての消費税法等の規定は前記のとおりであり、その課税期間に係る基準期間がない法人であっても、課税資産の譲渡等を行っている限り、消費税法五条一項の規定によって本来消費税等の納税義務が生じるのであり、消費税法九条一項本文の規定により例外的にその納税義務が免除されることになるとしても、消費税法一二条の二の規定により、基準期間のない法人のうち、当該事業年度開始の日における資本又は出資の金額が一〇〇〇万円以上である法人(新設法人)については、消費税等の納税義務が免除されないことになる。

したがって、原告に消費税等の納税義務が生じることは明らかである。

(三) また、消費税法九条一項及び三七条一項の規定は、中小事業者の事務負担を考慮して、一定の基準に満たない事業者に対して、消費税の納税義務の免除又は控除対象仕入税額の計算及び帳票類の記載の簡素化を認めたものであり、基準期間の課税売上高は、これらの規定が適用される際の判定基準にすぎず、消費税の課税体系が基準期間の存在を前提としているものではないから、この点に係る原告の主張は失当である。

3 新設法人における簡易課税の適用の可否について

(一) また、原告は、基準期間のない新設法人は、設立第一期の課税期間の課税売上高の金額によって簡易課税の適用の可否を判定すべきであると主張する。

(二) しかし、簡易課税制度選択適用届出書を提出した事業者の課税期間であっても簡易課税を適用しないで本則課税を適用しなければならないのは、その課税期間に係る基準期間の課税売上高が二億円を超える場合のその課税期間であるところ、新設法人については、当該課税期間において基準期間がそもそも存在しないのであるから、その「基準期間の課税売上高が二億円を超える場合」には該当せず、また、基準期間のない新設法人については、課税期間を基準期間とみなして、その課税期間の課税売上高の金額によって簡易課税の適用の可否を判定すべき旨を定めた規定も存在しない。

したがって、新設法人が事業を開始した日の属する課税期間内に簡易課税制度選択適用届出書を提出し、当該課税期間から簡易課税の適用を受けることを選択した場合には、たとえ当該課税期間の課税売上高が二億円を超えたとしても、当該課税期間から簡易課税を適用して仕入れに係る消費税額を計算しなければならないというべきであり、本則課税を適用することはできない。

五  争点

以上によれば、本件の争点は、以下の各点にある。

1  新設法人には、消費税及び地方消費税の納税義務が生ずるか。

(争点1)

2  新設法人が所轄税務署長に対して簡易課税制度選択適用届出書を提出した場合に、設立第一期の課税期間の課税売上高により、簡易課税が適用されるか否かが決定されるといえるか。

(争点2)

第三当裁判所の判断

一  争点1について

1  消費税法は、事業者は、国内において行った課税資産の譲渡等につき、同法により、消費税を納める義務があることを規定した(同法五条一項)上で、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が三〇〇〇万円以下である者については、右の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等につき、消費税を納める義務を免除する旨の規定(同法九条一項本文)をおいている。

したがって、新規の事業者については、右基準期間を想定することができないから、事業開始後二年間は、消費税の納税を免除される免税事業者に当たることとなる。

しかし、右の免税事業者制度は、小規模零細事業者の事務負担への配慮、多数の納税者に対する税務執行への配慮等から定められたものであることから、同項ただし書は、別段の定めがある場合には、右の規定の適用がないことを朋らかにし、事業者が、相続又は合併によって事業を承継し、その事業規模が小規模零細事業の域を超えた場合にまで、免税のままにしておくのは適当でないことから、同法一〇条、一一条に右別段の定めをおき、また、会社を分割して複数の免税事業者を作ることによる消費税の回避を防止するため、同法一二条に右別段の定めをおいて、これらの一定の場合には納税義務の免除をしないこととしているが、さらに、その事業年度の基準期間がない法人のうち、当該事業年度開始の日における資本又は出資の金額が一〇〇〇万円以上である法人(新設法人)についても、同法一二条の二は、その法人の基準期間がない事業年度における課税資産の譲渡等につき、同法九条一項本文の規定を適用しないこととしている。

2  右のとおり、「消費税法は、事業者は、国内において行った課税資産の譲渡等につき、消費税法により、消費税を納める義務がある旨を明確に定める一方、例外的にその納税義務を免除する規定である同法九条一項本文の規定は、新設法人には適用しないことも明確に規定しているのであるから、新設法人が消費税の納税義務を負っていることは明らかである」というべきである。

そして、地方消費税については、消費税の税額が課税標準とされ(地方税法七二条の七七第二号、第三号、七二条の八二)、新設法人に係る納税義務の免除の規定も設けられていないことから、新設法人は、地方消費税についても納税義務を負っているというべきである。

3  これに対し、原告は、消費税法五条一項が包括的注意規定であり、新設法人に対する課税の根拠となる規定は存在しないと主張する。

しかし、消費税法は、消費税について、課税の対象、納税義務者、税額の計算の方法、申告、納付及び還付の手続並びにその納税義務の適正な履行を確保するため必要な事項を定める目的で制定されたものであり(同法一条)、同法五条一項及び二項が、いずれも同法による消費税の納税義務者を定める規定であることは、その規定の体裁及び内容から明らかであり、右の規定が包括的注意規定にすぎないとする原告の主張は採用できない。

4  また、原告は、消費税法が、事業者を非課税事業者と課税事業者に分類した上で、さらに、課税売上高の規模により簡易課税制度選択適用業者と本則課税業者とに分類し、この分類の基準を課税売上高の規模によることとしていることから、右の事業者の課税区分を確定するためには、二会計年度の経過が必婁であり、基準期間の存在は消費税法の基本的構成であるとして、基準期間が存在しない新設法人には、消費税の納税義務が生ずるものと解することはできないと主張する。

しかし、消費税法九条一項本文が小規模事業者に係る納税義務の免除を定めた趣旨は、前記のとおり、小規模零細事業者の事務負担への配慮、多数の納税者に対する税務執行への配慮等の点にあり、また、同法三七条一項が、簡易課税を定めた趣旨は、納税事務の簡素化とコストの軽減のため、税額の算定を容易にすることに対する要請があったとの点にあり、いずれも消費税の導入を容易にし、かつ、その定着を図ることを目的として、規定されたものと解される。

そして、基準期間という概念も、かかる小規模事業者に係る納税義務の免除制度及び簡易課税制度を適用するか否かの振り分けを行う一つの基準として使用されているものにすぎず、基準期間がない新設法人に対して消費税を課することが消費税の趣旨に反するとか、消費税法全体の構成上、許されないと解すべき理由を見出すことはできない。

したがって、この点に関する原告の主張も採用できない。

二  争点2について

1  消費税法は、事業者が、事業を開始した日の属する課税期間に、その納税地を所轄する税務署長に簡易課税制度選択適用届出書を提出した場合には、当該課税期間以後の課税期間(その基準期間における課税売上高が二億円を超える課税期間及び分割に係る課税期間を除く。)については、簡易課税方式により算定した金額を、当該課税期間における仕入れに係る消費税額とみなすこととしている(同法三七条一項、消費税法施行令五六条一号)。

右によれば、「簡易課税制度選択適用届出書を提出した新規事業者の課税期間について簡易課税が適用されるのは、右届出書を提出した日の属する課税期間以後の課税期間であって、その基準期間における課税売上高が二億円を超える課税期間及び分割に係る課税期間に当たらない場合であるから、基準期間のない課税期間であっても、簡易課税が適用される」と解することは文理に即したものというべきである。

2  これに対し、原告は、設立第一期の課税期間の課税売上高が二億円を超えた場合は、簡易課税制度選択不適用届出書が提出されていなくても、自動的に本則課税とされるべきであると主張するが、簡易課税を規定した消費税法三七条一項の規定は前記のとおりであり、このほかに、基準期間のない新設法人について、当該設立第一期の課税期間の課税売上高の金額によって簡易課税適用の有無を判断すべきとする等とした別段の規定も存しないのであるから、原告の主張を採用することはできない。

三  以上によれば、原告が、その事業を開始した日の属する課税期間である本件課税期間について、被告に対し、簡易課税制度選択適用届出書を提出していることは前記認定のとおりであるから、原告の本件課税期間に係る消費税及び地方消費税については、簡易課税によるべきであるところ、原告の本件課税期間に係る消費税及び地方消費税について、簡易課税方式によって算定した場合の消費税の課税標準額、納付すべき税額等及び地方消費税の課税標準となる消費税額、譲渡割額の計算関係については当事者間に争いがないから、本件課税期間の課税標準額を二億二七九四万八〇〇〇円、納付すべき消費税額を四五五万八九〇〇円及び譲渡割額を一一三万九七〇〇円とした本件更正処分は適法というべきであり、本件更正処分を前提として行われた本件賦課決定処分も適法である。

四  なお、本訴においては、原告は、消費税及び地方消費税の納税義務が生じていないから、消費税の納付すべき税額及び地方消費税の譲渡割額はいずれも零円となると主張し、本件確定申告に係る納付すべき税額、譲渡割額を超えない部分を含めて、本件更正処分全部の取消しを求めている。

ところで、申告後に増額更正処分がされたとしても、そのことによって、納税義務者が申告を行った事実が消滅するわけではなく、申告によって生じた効果は、右増額更正処分の中に吸収された形で引き継がれ、引き続き存続すると解され、申告納税制度の下において、納税義務者がその申告の誤りを是正するためには、所定の期間内に更正の請求をすべきことが要求されており(国税通則法二三条)、右の更正の請求の方法によらずに、申告の誤りを是正することは、申告の錯誤が客観的に明白かつ重大であって、法の所定する方法以外にその是正を許さなければ納税義務者の利益を著しく害すると認められるなどの特段の事情が存する例外的な場合に限られているというべきである。

しかし、右特段の事情の存在は、増額更正処分のうち、申告に係る納付すべき税額の部分の取消しを求めるための訴訟要件であるとまでは解されないから、本件訴え中、本件更正処分のうち本件確定申告に係る納付すべき税額、譲渡割額を超えない部分についての取消しを求める訴え部分についても適法な訴えと解すべきである。

五  よって、原告の請求はいずれも理由がないから、棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 市村陽典 裁判官 阪本勝 裁判官 村松秀樹)

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